「特定の家族に多くの財産を遺すため、他の子どもたちが不満を持たないか心配だ」
「介護をしてくれた長女に感謝を伝えたいけれど、遺言書の本文はカタい文章ばかりで気持ちが伝わらない」
遺言書を作成する際、多くの方が頭を悩ませるのが「家族間での争いや感情の対立」です。
遺言書の本文には「誰に・何を・どれだけ相続させるか」という法律上の権利(法的効力)のみを記載するのが原則ですが、その文章だけでは「なぜそのような分配になったのか」という理由や親の本当の想いが伝わらず、残された家族が感情的になってしまうケースが少なくありません。
そこで非常に重要な役割を果たすのが、遺言書の最後に添えるメッセージ「付言事項(ふげんじこう)」です。
今回は、行政書士の視点から、付言事項がもたらす強力な心理的効果、具体的な書き方のコツ、パターン別の文例を分かりやすく解説します。
付言事項とは?(法的効力のない「心のメッセージ」)
付言事項とは、遺言書の本文(法的効力を持つ記載)とは別に、遺言者の気持ちや意図、家族への感謝などを自由に書き残す補足メッセージです。
- 法的効力: ありません。(「〇〇に財産を与える」などの権利変更は本文に書く必要があります)
- 主な内容: 遺産分配を決めた理由、家族への感謝、介護へのねぎらい、今後の仲睦まじい暮らしへの願い、葬儀の希望など。
法的効力がないにもかかわらず、実務において専門家が付言事項の作成を強く推奨するのは、残された相続人の「心理」に直接働きかける強い力があるからです。
付言事項がもたらす3つの「心理的効果」
人は「理由のわからない不公平」に対して強い怒りや不満を抱きますが、「納得できる理由」が添えられていれば不満を飲み込みやすくなります。
1. 遺言内容への「納得感」を高め、トラブル(争族)を防ぐ
例えば、「長男に実家と株式をすべて集中させる」という本文だけでは、次男は「自分は愛されていない」「不公平だ」と感じてしまいます。
しかし付言事項で、「家業である会社を存続させるため、経営基盤として長男に集中させた。次男には学費や創業資金として生前に手厚い援助をしてきた経緯を理解してほしい」と記載されていれば、意図が伝わり感情的な対立を防ぐことができます。
2. 「遺留分(いりゅうぶん)侵害額請求」の抑制につながる
特定の相続人の取り分が少なく、法律上の最低限の取り分である「遺留分」を下回る場合、残された家族の間で請求権(裁判等の争い)が行使されるリスクが高まります。
付言事項で「母さんの老後資金を確保するため、子どもたちの取り分を少なくした。お母さんが安心して暮らせるよう、どうか遺留分の請求はしないでほしい」と理由と願いを切実に訴えることで、心理的に請求を踏みとどまらせる効果が期待できます。
3. 遺された家族の絆を深める「遺品」になる
遺言書は、故人が残す「人生最後のメッセージ」です。
日頃は照れくさくて言えなかった「これまで家族を支えてくれてありがとう」「みんなで仲良く暮らしてほしい」という温かい言葉は、遺族にとって生涯の心の支えとなります。
心理効果を高める付言事項の書き方(3つのコツ)
せっかく付言事項を書くのであれば、逆効果にならないよう以下のポイントを意識して作成しましょう。
1. 「否定的な言葉・批判・不満」は絶対に書かない
「昔、次男にはお金で苦労させられた」「〇〇は滅多に顔を見せなかった」といった不満や愚痴を書くと、読んだ相続人の感情を著しく逆なでし、かえって裁判などの泥沼化を招きます。
不満を書くのではなく、「長男夫婦が同居して介護してくれたことへの感謝」など、肯定的な理由(〇〇を優遇した理由)を前面に出すことが鉄則です。
2. 配分の理由・背景を「具体的かつ客観的」に伝える
ただ「仲良くしなさい」と書くだけでは効果が薄れます。
- 「誰に・どのようなお世話になったか(介護・家業の手伝い等)」
- 「過去にどのような支援をしたか(住宅資金の生前贈与など)」
- 「今後、残された配偶者の生活をどう守りたいか」など、数字や客観的事実を交えて理由を説明しましょう。
3. 長くなりすぎないようにまとめる
付言事項が何ページにも及ぶと、どこが遺言の本文(法的意図)なのかが分かりづらくなります。
長い生い立ちや思い出話を書き残したい場合は、別途「エンディングノート」や「お手紙」を用意し、遺言書内には要点を簡潔にまとめるのがスマートです。
【パターン別】すぐに使える付言事項の文例
実務でよく使われる付言事項の文例をご紹介します。
パターン①:介護をしてくれた子に多く財産を遺す場合
【付言事項】
長女の〇〇には、私の晩年の療養生活や介護を長年にわたり献身的に支えてくれたことに心から感謝しています。
その苦労に報いるため、実家不動産を含めて〇〇に多めの財産を遺すことにしました。
長男の〇〇や次男の〇〇も、長女が日常の介護を引き受けてくれたおかげで、私が住み慣れた自宅で安心して過ごせたことを理解し、この分配に納得してくれると信じています。
私が亡くなった後も、きょうだい仲良く助け合って暮らしてください。
パターン②:残される妻の老後資金を最優先し、子どもに遺留分放棄を願う場合
【付言事項】
長年連れ添った妻の〇〇には、苦しい時も私を支えてくれたことに深く感謝しています。
私が亡くなった後も、妻が住まいの心配なく、安心して老後を送れるように自宅不動産と預金の多くを妻に相続させることとしました。
子どもたちの取り分は少なくなってしまいますが、どうかお母さんの今後の生活を第一に考え、遺留分の請求などをすることなく、温かく見守ってくれることを切に願います。
まとめ:気持ちがしっかりと届く遺言書づくりはお任せください
法的効力のある遺言書本文を正しく作成することはもちろん大切ですが、残された家族が遺言書を開いたときの「感情」に配慮することこそが、真のトラブル防止(円満相続)につながります。
付言事項は、法律のルールに縛られず、ご自身の本音と愛情を伝える最高のツールです。
- 「自分の思いや配分の理由を、どう文章にまとめたらいいかわからない」
- 「相続人がもめないような付言事項の文案を専門家にアドバイスしてほしい」
- 「無効にならない公正証書遺言とセットで、しっかりとした文案を作りたい」
とお悩みの方は、ぜひ行政書士きいサポートオフィスにご相談ください。
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